海外フライトのトラブル。フィンランド航空の神対応に感激した話
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日本のエアラインの、言いようのない安心感。それは同じ日本人だから感じるのでしょうか。
たぶん、そうではないと思います。日系エアラインで働く方々の無駄の無い立ち居振る舞いや、隅々まで神経を張り巡らしながらも笑顔を絶やさない姿勢が、私たちに安心を与えているのだと思います。
私がこれまで受けてきたエアラインのサービスの中で、記憶に残るものがいくつかあります。
例えば、いつでも笑顔を絶やさず、どんなことも見逃さない視野で全てを完璧にこなしていた、シンガポール航空の男性パーサー。
ジョグジャカルタから、ジャカルタ経由で日本に帰国する家族を、遅延を最小限に抑えて無事に搭乗口まで誘導してくれたインドネシアのANAスタッフ。
そして、ヘルシンキ空港で起きた、フィンエアーのスタッフによる大逆転劇。
今日は、たまたま2015年のヘルシンキで経験したお話を思い出す機会がありました。折角なので、それを記事にしてみたいと思います。
2015年夏、北欧の旅
2015年のお盆。多くの日本人がフィンランドを訪れていました。日本の重苦しい湿気を脱し、北欧の爽やかな風に吹かれ、みなさん気持ちよさそうに観光しています。
しかし、元バックパッカーの私はそんな優雅なことはしません。
ヘルシンキからストックホルムを経由してリトアニアのヴィルニアスへ飛び、陸路でラトビア、エストニアを周ってヘルシンキへ戻ってきたのでした。この1週間、各地のビールを飲みながら、バルト三国の5都市をがっつり見て周っていました。ふと気づくと、ラトビアの山の中でトレッキングになっていたほど。歩き通しの毎日でした。
そうして、エストニアのタリンから、朝一番のフェリーでヘルシンキに到着。駅に荷物を預け、半日程の観光に出かけました。市場で腹ごしらえを済ませ、さわやかな陽気の下、定番の観光コースをぶらぶらと歩き回りました。
ほどなくして飛行機の出発時間が近づき、私は駅で荷物を回収して空港へ向かうことにしました。
街中からはバスで空港へ向かうのが一般的ですが、この日は帰国の日本人が空港行きのバスへ殺到。私は慌てて別の手段を探し、出来たばかりの空港行き列車に飛び乗りました。予定より少し遅れましたが、なんとか出発の二時間前には到着できそうです。
ヘルシンキ ヴァンターは小さくて可愛い、こぢんまりとした空港です。二つのターミナルは歩いて行き来できる距離です。空港内には、さすが北欧と言わんばかりのオシャレなカフェやスーパーもあり、出発直前までこの国を楽しむことができます。
ヘルシンキ到着時に、乗り継ぎ待ちの時間を使って、隅々まで探検していた私には庭のようなもの。スーパーで最後のお土産、ムーミンのポストカードを調達して、出発フロアの発券機で手続きします。
この日の旅程は、ヘルシンキ発 上海経由 成田行きでした。
しかし、機械から出てきたチケットは一枚だけ。そして表面には見慣れない文字が。
「SEAT: SBY」・・・そんな席あったっけ?
オーバーブッキング
「Stand BY」
スタンバイ。噂に聞いていた、席が無いとかいうアレです。
私はこの時、事前に席の確保をしていませんでした。今では信じられませんが、バックパッカー的には事前の席予約なんてどうでもいいのです。安さこそ正義。煩わしいことは一切しない。(私だけだと思います)
折しも爆買いが日本だけではなくヨーロッパまで到達していた頃。
中国からの観光客は日本のそれを上回る勢いでした。私が予約していた上海行きは殺到した中国人で抑えられてしまったのでしょう。
まあしかし、こうなったものはしょうがありません。
チェックインカウンターで直接相談です。
(あわよくばインボランタリーアップグレード(ビジネスへのアップグレード)をしてくれるかもしれません)
カウンターでは体格のいい、白人のナイスガイが対応してくれます。
私「なんかチケットにSBYって書かれてて、オーバーブッキングみたいなんだけど」
ガイ「あー、こりゃ席ないな。んー、お前さ、中国行く用事ある?」
私「や、ないけど。どうして?」
ガイ「お前東京に直接帰るか?上海はビジネスも埋まってるけど、そっちなら空席があるんだわ。出発時間もほとんど同じだしな。じゃ、行き先を東京に振り替えるわ。東京行きビジネスな。」
マ ジ か!
渡りに船とはこのこと。ビジネスになっただけでなく、東京行きに振り替えてもらえるとは!オーバーブッキング最高ぉぉ!
私は満面の笑みで、余裕ぶっこいて空港内を見渡します。そう、私はビジネスクラスに乗れるのです。しかもフィンエアー。エアチャイナとは違う。笑いが止まりません。
しかし、待てども待てども、ビジネスクラスのチケットが出て来ないのです。
そして、空港内の様子がおかしなことに気づきました。
発券機の周りで怒号が飛び交ってます。それもあちこちで。
係の女性が必死に何か操作しています。
係員が走ってきます。
ガイ「おいおい、システムダウンしてんぞ。振り替えできねえじゃねえか」
笑顔は消え、青ざめていました。
私が発券したあと、フィンエアーのシステムが全てダウンしていたのです。
今ここにいる人たち、全員発券できません。
まあ待て。落ち着け。SBYが出たからと言って、それがシステムをダウンさせたとは限らない。でもなんでしょう、このやっちまった感。みなさんごめんなさい。そんな気持ちでした。
ガイ「システムが復旧すれば余裕で振り替えられるんだけどな。どうすっかな」
私「いいよ、ギリギリまで待つから。どれくらいで復旧できそうって?」
ガイ「1時間あれば復旧できるかも、って言ってるけどな。悪い、ちょっとあっち手伝わないとヤバイから行くわ。どうせ今は発券できないし。じゃあな、Good Luck☆」
私は、すんでのところで東京行きビジネスクラスのチケットを取り上げられ、崖から落とされたような気持ちになりました。
あれ、この状況。マズイよな。これからどうなるんだっけ?
今、手元にあるのは、席ることのできない上海行きのチケットだけ。
あれか、立ち乗りか。そんなLCCもあったし、何とかなるか。
追いつめられて変なポジティブが湧いてきます。
現実逃避している場合ではありません。
東京行きのチケットが発券できないのであれば、非常に困ったことになるのです。
困難ばかりの空港で
私「これって、ヘルシンキ発 東京行きなんだけど、上海-東京は発券してもらえないの?」別のカウンターのお姉さんに尋ねます。
お姉さん「あんたこの状況分かってんの?システム落ちてるのに発券できるわけないでしょ!」
怒られました。
実は、上海から東京までの乗り継ぎは二時間。フライトは上海までがフィンエアーで、上海~東京がエアチャイナ。連携してもらえるはずもありません。
このままでは上海で荷物を受け取った後、カウンターで発券し直し、荷物を預ける必要があります。さらに中国のイミグレも待っています。そんな時間あるか?本当にギリギリです。
「~♪」
空港内にアナウンスが響きました。全便遅れているようです。システムダウンの影響ですって。上海行きは一時間遅れるそうですよ。
マズイマズイ。非常にマズイ。いや、ムリでしょこれ。
乗り換えが間に合わないのであれば、上海で東京行きチケットを買い直すか、エアチャイナと交渉して後の便に乗せてもらうかしかありません。
笑えてきます。段々と冷静になってきました。
私には往々にしてこういうことが起きます。旅をしていると、有り得ないことが毎回、起きます。
無意味な困難を与えられて、何とかして帳尻を合わせる。
合わせろと言われているのです。
実はこの旅はいわくつきでした。遡ること2年前、私は上海経由でヘルシンキへ旅に出ました。しかし上海到着の翌朝寝過ごし、搭乗カウンターについたのは出発の1時間20分前。私の中では十分間に合う時間でした。
しかし、到着した私が見たものは閉じられたフィンエアーのカウンターでした。搭乗システムもダウンさせられていました。代行していたエアチャイナのスタッフは、システムの再起動方法が分からないという理由で私の発券を一切拒否しました。遅かった私が悪いのですが、あんまりな対応でした。これまでの旅で最大の失敗です。
今回も旅程は2年前のものに近かったのですが、前回の反省を踏まえ、ムリをせず慎重に、旅を進めました。そのおかげでトラブルなく北欧を旅できたのですが、最後の最後に待ち構えてました。そうやすやすと帰してはもらえませんよね。
最後の選択
腹は決まりました。
今、私に取れる方法は3つ。
①システム復旧を祈り、日本行きの発券を待つ
②次の上海行き、もしくは日本行きへ振り替えてもらう
③一泊し翌日振り替えを待つ
まずは②を確認します。
私「上海か日本か、今日の最終便に空きはある?」
お姉さん「今日はもうないわ。明日なら空きがあるかもね」
いきなり②が玉砕です。必然的に③になりました。
明後日は仕事です。何て説明しよう。
私「ちなみに、明日に振り替えの場合、宿泊費ってどうなるの?」
お姉さん「会社が払うから。もう、いいでしょ!忙しいの。」
また怒られました。
お金は出してくれそうですが、明後日の仕事には間に合いそうもありません。
弱りました。
①のシステムはというと、専門家らしき人が来て、一生懸命何かを打ち込んでいますが一向に回復しません。出発まで一時間を切りました。小さい空港とは言え40分前には動かないとイミグレを抜けることが難しくなりそうです。システム復旧に賭けることの出来る時間はあと20分。
残り時間、手当たり次第に聞いて回ります。他に方法はないか、最速の代替便はいつか、大阪行きはどうか。
しかし、全てがダメでした。システムがダウンしている以上、振り替えそのものが不可能なのです。
とうとうタイムリミットがやってきました。
私は最初のカウンターに戻っていました。
あのナイスガイも戻って大慌てで何かしています。
ガイ「お、お前まだいたのか」
私に気づきました。
私「今日、もうムリかな」
万策尽きた私は③の宿泊を受け入れる覚悟を決めていました。
顔を上げるとナイスガイが同僚の女性と何か話しています。
ガイ「お前、上海のチケット持ってるよな?とりあえず搭乗口まで行け」
はい?
私「え、荷物どうすんの?どれに乗せるの?」
ガイ「上海便に乗せる。それしかできないからな」
私「いやいや、座る席ないんでしょ?飛行機乗れなかったら私はヘルシンキ、荷物は上海。マジで最悪なことになるから」
ガイ「そうなったら、俺が荷物引っ張り出してやるから!お前は荷物と一緒にヘルシンキだ」
私「はあ」
ナイスガイは私のバックパックをビニールで包んで預け荷物の中に入れてしまいました。
ガイ「いいか、ここじゃ何もできない。でも、搭乗口まで行けば何かが出来るかもしれない。可能性があるのはここじゃない。とにかく行け!」
ヴァンダーの魔女
出発まで残り30分。
私は走りました。幸いなことに東アジア方面のフライトは、出発時間が固まっていたため、団体客は既に時間のかかるエリアを抜けていました。
ガラガラのイミグレを抜けて、私は指示された搭乗口へ到着しました。
乗客の列が見えます。手前が上海行き、奥が成田行き。
どちらも既に搭乗が始まっていました。
その列の真ん中に、白髪の女性が座っています。
老眼鏡には銀のチェーンが付いていました。
黒い制服が魔女を連想させます。
魔女「おや、よく来たね。あんたのことは聞いてるよ。チケットを見せな」
私「は、はい」
魔女「今からあんたの荷物を引っ張り出すよ。バゲージナンバーは・・これだね」
私「あ、あの、赤いバックパックです。大きな」
魔女「上海行きの中から探すから、ちょっと待ちな」
魔女は電話で指示を飛ばします。本当にそんなことができるのでしょうか。
数分間、魔女は受話器を持ったまま、あれこれ話していました。
魔女「見つけたよ。東京行きに載せ替えだね」
すごい。本当に見つかりました。
魔女「あんた、東京へ行きたいんだろう?待ってなさい。いま発券してあげるから」
魔女はとなりにある機械に、行き先とフライトNo、私の名前を入力していきます。そして白地のチケットを取り出し、機械に通しました。
遂に東京行きのチケットが出来あがりました。
これをどれだけ心待ちにしたでしょう。
残り10分からの大逆転です。
「席はビジネスクラスしか空いていませんでしたので」
日本人女性のスタッフが言いました。
「今回はご不便をおかけして申し訳ありませんでした」
いえいえ滅相もございません。
私は、凄腕の魔女と女性スタッフに何度もお礼を伝え、搭乗の列に並びました。
ふと上海行きの列を見ると、あのナイスガイが乗客を誘導しています。
私は嬉しくなって、「本当に乗れた!ありがとう!!」と叫びました。
仕事中のナイスガイはちょっと笑って、無言で親指を立ててくれました。
見事なチームプレーで一人の日本人を何とか飛行機に乗せてくれたフィンエアーのスタッフたち。それぞれが考えて、最善のことをしてくれたのだと思います。そこにはマニュアルや規則ではなく、それぞれの良心がありました。
私の旅では、ことあるごとに理不尽なトラブルが起こり、毎回なんとか挽回してゼロに持っていくようにしています。しかし、フィンエアーのスタッフは、こんなに大きなマイナスをプラスに変えてくれました。
そんな魔法が使えるスタッフは、今日もみんなを運んでいます。ヨーロッパとアジアを繋いでいます。いつものように、当たり前に、一人残らず「みんな」を運ぶために頑張っているんでしょう。それが、乗客の安心と信頼を生むんだと思います。